道徳的運

「道徳的運」(Moral Luck)とは、個人の道徳的判断や責任において、個人がコントロールできない外部の要素や偶然の要素が影響を及ぼす現象を指します。この概念は、アメリカの哲学者であるトーマス・ナゲル(Thomas Nagel)によって提唱されました。

通常、個人の道徳的な評価や責任は、個人の意図や行動に基づいて行われます。しかし、道徳的運の考え方では、個人の意図や努力だけでなく、結果や外部の要素が道徳的判断に影響を与えることを指摘しています。

具体的な例としては、運転中に歩行者に接触してしまった場合を考えてみましょう。もし歩行者が完全に個人の責任で避けられる範囲にいた場合、運転者は明確に道徳的に責められるでしょう。しかし、もし歩行者が予期せぬ行動をとってしまい、運転者が避けようとしても接触してしまった場合、運転者の道徳的責任は軽減されるかもしれません。

道徳的運は、道徳的責任と結果の関係におけるパラドックスや複雑さを示しています。個人の意図や努力は重要ですが、結果や外部の要素も道徳的な評価に影響を及ぼすことを認識する必要があります。この概念は、倫理学や道徳哲学において重要な議論の一つとされています。